拠点ごとに届くExcelを、1つの表にまとめる。すると、同じ取引先が「株式会社」の有無や「(株)」という略し方の違いで、別々の会社として並んでいる。品名も、全角と半角、略し方が人によって違います。
同じ取引先なのに、2つの表で合計が合わない…
「(株)」と「株式会社」で、別の会社として数えられています
表をまるごとAIに渡して「整理して」と頼むと、手早く片づいたように見えます。ところが、合計が元の表と合わなかったり、必要な行が消えていたりすることがあります。
社名や品名のように、同じものが書き方の違いで別のものとして並ぶことを、表記揺れといいます。この記事では、Excelのデータ整理を、表記揺れの整理、複数ファイルの照合、集計に分けて考えます。それぞれをAI・プログラム・人でどう受け持つかと、AIを使うときの注意点を説明します。
この記事のポイント
- AIには、表記揺れの候補を挙げる、ファイルごとに違う列の意味をそろえる、照合のルールの案を作る、といった作業を任せる
- 計算・集計・照合そのものは、毎回同じ答えが出るプログラムで行う。同じものとしてまとめてよいかは人が決める
- Excelの整理にAIを使うときは、AIに計算させない、元のデータを残す、個人情報や社外秘を渡す前に伏せる、の3つを守る
Excelのデータ整理は、AIが候補を出し、プログラムが処理し、人が決める
Excelのデータ整理にAIを使うときは、AIには候補やルールの案を作らせ、計算や照合はプログラムに任せます。AIが得意なのは、書き方の違う社名から同じ会社の候補を挙げることや、ファイルごとに名前の違う列の意味を読み取ることです。
計算・集計・照合は、毎回同じ答えが出るプログラムで行います。同じものとしてまとめてよいかを決めるのは、人です。元のデータには手を加えず、整理した結果は別に作ります。
Excelのデータ整理を、AI・プログラム・人で分ける
Excelのデータ整理には、性質の違う作業が混ざっています。作業ごとに受け持ちを分けると、次のようになります。
| 作業 | AI | プログラム | 人 |
|---|---|---|---|
| 表記揺れの整理 | 同じものと思われる書き方の候補を挙げ、理由を添える | 人が決めた対応表で、書き方を置き換える | 同じものとしてまとめてよいかを決める |
| 列の意味をそろえる | ファイルごとに名前の違う列の意味を読み取り、対応表の案を作る | 対応表に沿って、共通の形に並べ替える | 対応表の案を確かめる |
| 複数ファイルの照合 | どの列で突き合わせるかなど、照合のルールの案を作る | ルールに沿って突き合わせ、合う行と合わない行に分ける | 合わない行を、元の表で確かめる |
| 集計 | 集計の結果を読み、大きく変わった数字を文章で説明する | 合計・件数・平均と、前の月との差を計算する | 数字を見て判断する |
AIが受け持つのは、人が決めるための候補とルールの案を作るところまでです。AIがまとめた表をそのまま正しいものとして使うと、間違いが混ざっていても気づけません。
候補と案はAI、処理はプログラム、判断は人と分けておくと、どこで間違いが入ったかを後から確かめられます。
表記揺れは、AIが候補を挙げて人が決める
表記揺れの整理では、AIが「同じ会社かもしれない」組み合わせを挙げ、なぜそう考えたかを添えます。まとめるかどうかは、取引の事情を知っている人が決めます。名前が似ていても、支店やグループの会社のように、分けて数えるべき場合があるからです。
| 元の書き方 | まとめる先 | AIが挙げた理由 | 人の判断 |
|---|---|---|---|
| (株)みなと商事 | 株式会社みなと商事 | 「(株)」と「株式会社」の違いだけ | まとめる |
| みなと商事 大阪支店 | 株式会社みなと商事 | 会社名の部分が同じ | 分ける(支店ごとに数える) |
| ボルト M8x20 | 六角ボルト M8×20 | 寸法が同じで、半角と略し方が違う | まとめる |
社名と品名は架空のもので、実際のAIの出力ではありません。
この2つは、書き方が違うだけで同じ会社かもしれません
こっちは支店だから、別のままにしておこう
人が決めた結果は、書き方の対応表として残します。次の月からは、対応表にある書き方はプログラムが置き換え、AIは対応表にない新しい書き方だけを候補に挙げます。対応表の行が増えるほど、人が確かめる件数は減っていきます。
営業の記録を自動でまとめる仕組みのご提案では、営業リストを登録・更新する担当者がいないことが悩みでした。社名の書き方が違うだけの同じ会社の記録を1社にまとめる作業では、AIの判定すべてに根拠と自信の度合いを付ける形にしました。人が確かめるのは、自信の低い判定だけです。
このご提案では、人が直した項目を、AIがあとから書き換えないようにしました。人の判断が、次の整理で元に戻ってしまうのを防ぐためです。
ファイルごとに違う列の意味を、AIにそろえてもらう
拠点や部署ごとに作られたExcelは、同じ中身でも、列の名前や並び、単位が違うことがよくあります。「売上」が税込みか税抜きか、日付が「10/1」か「2026年10月1日」か、といった違いです。
こうした違いを見つけるのは、AIが得意な作業です。AIが列の名前と中身を読んで、共通の形との対応表の案を作り、人が確かめます。確かめた対応表に沿って、並べ替えと変換はプログラムが行います。
店舗ごとの表を、1つの形にそろえる(イメージ)
- 「売上(税込)」の列がある表
- 「売上高」が税抜きの表
- 日付の書き方が違う表
- 列の対応表(人が確かめる)
- 共通の形にそろえた1つの表
- 意味が分からない列の一覧
列の名前だけでは意味が分からない表もあります。ご相談を受けた会社では、長年使ってきたデータベースの表の名前が略号ばかりで、何に使う表なのか分からないものや古い控えが混ざっていました。AIと一緒に中身を読み解き、その日のうちに、表の役割とつながりを書き出した一覧ができました。
通販の会社への、問い合わせや受注のデータを分析する仕組みのご提案でも、数字の定義がそろっていないことが論点になりました。表と項目の意味を日本語でまとめた一覧を作り、AIが数字の意味を取り違えないようにする形を考えました。
店舗や拠点が多いほど、表をそろえる作業を自動にしたときの効果は大きくなります。フランチャイズ本部では、店舗ごとの数字を人の手で集めていました。当社は、店舗別の分析ダッシュボードで数字を取りに行く作業をなくし、改善案まで自動で出す仕組みを構築しました。
フランチャイズ本部での構築例
複数ファイルの照合は、ルールを決めてプログラムで行う
2つ以上のファイルを突き合わせるときは、まずどの列で突き合わせるか、どこまでの違いを同じとみなすかを決めます。たとえば受注の表と出荷の表なら、注文番号で突き合わせ、数量が違えば「合わない」とする、といった決まりです。
この決まりの案は、AIに作らせることができます。AIは両方の表の列を読み、突き合わせに使えそうな列や、注意が必要な違いを挙げます。照合そのものはプログラムが行い、結果を「合う行」「合わない行」「片方の表にしかない行」の3つに分けます。
照合のルールをAIに相談したやりとり(説明例)
受注の表と出荷の表を突き合わせたいです。どう照合すればいいですか?
2つの表に共通する「注文番号」で突き合わせる案です。出荷の表は品名が略されているため、品名では照合しません。照合はプログラムで行い、数量と日付が合う行、合わない行、片方の表にしかない行に分けます。根拠:2つの表の列の名前と、それぞれの先頭の行の中身
照合のルールは、担当者が確かめてから使います
人が見るのは、合わない行と、片方の表にしかない行だけです。合う行まで目で見比べる必要はありません。請求書と入金の照合のように、経理の仕事で同じ考え方を使う方法は、経理業務のAI活用の記事で説明しています。
照合のルールも、人が直したら1行ずつ記録しておきます。「この取引先は、2回に分けて出荷することがある」のような例外を残しておくと、次の月から同じ理由で「合わない」と出る行が減ります。

Excelのデータ整理でAIを使うときの注意点
Excelのデータ整理にAIを使うときに、守っておきたいことが3つあります。
Excelのデータ整理でAIを使うときの3つの注意点
- AIに計算させない合計・件数・平均はプログラムで計算する。AIは計算の結果を読んで説明する役にする
- 元のデータを残す元のファイルは上書きせず、整理した結果は別に作る。どの行をどうまとめたかも残す
- 伏せてから渡す個人情報や社外秘は、AIに渡す前に伏せるか、そもそも読み込ませない
文章を作るAIは、合計や割り算を間違えることがあります。表の数字は、AIに計算させずにプログラムで計算します。AIに計算させない理由と、誤りを止める仕組みは、次の記事で詳しく説明しています。
詳しく解説した記事コラムAIの誤回答(ハルシネーション)を業務で防ぐには|起きる前提で止める仕組みAIの誤回答(ハルシネーション)は、完全になくすことが難しいため、起きても業務に出る前に止まる仕組みを作ります。業務で起…元のデータを残しておけば、整理の途中で間違いに気づいたときに、元に戻って確かめられます。整理した表には、どの行を、どの書き方からまとめたかも記録しておきます。
個人情報を含む表は、AIに見せる項目を先に絞ります。食品メーカーの情報システム部門へのご提案では、新しく入った社員のアカウントを発行する作業が、限られた担当者に集中していました。その作業をAIに手伝わせる仕組みでも、氏名や連絡先はAIに見せない設計にしました。
プログラムが氏名を番号に置き換えてからAIに判断させ、人が承認した後で、元のデータと照らし合わせます。記録をまとめたり分類したりするのに、名前や連絡先そのものが要らない場合も多くあります。決算のように見てよい人が限られる情報は、そもそもAIに読み込ませない線引きを、お客さまと一緒に決めます。
始めるときは、毎月くり返す表の整理を1つ選び、整理にかかる時間と、人が手で直した件数を、始める前と後で比べます。1つの表で効果を確かめてから、ほかの表に広げるのが当社の進め方です(導入支援の進め方)。
マスターブレインを活用したデータ整理
マスターブレインは、会社にあるさまざまな情報・業務知識・判断基準を整理し、必要な場面で活用できるように設計する、会社専用のAI基盤です。
拠点や部署ごとのExcelや業務システムのデータを、今の置き場所のままつなぎ、列の対応表や書き方の対応表と一緒に整理します。候補とルールの案はAI、計算と照合はプログラムが受け持ち、まとめてよいかの判断は人が行います。人が決めた内容は「ルール帳」に1行ずつ残り、次の月の整理に使われます(マスターブレインの仕組み)。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
表の照合を、合わない行だけ見る形にしませんか?
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この記事の監修者

AIを活用したシステム開発・業務自動化の専門家。システム開発に10年携わり、GPT-3.5の頃から生成AIを実際の業務に取り入れてきた。基幹システムの刷新から業界に特化したAIサービスまで、本番で動くシステムを設計・構築している。
- AIで業務を効率化し、社員20人で10個以上のサービスを運営
- 教育の流れをAIで自動化し、未経験の5人を3か月で開発者として戦力化
主な登壇
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