退職や異動が決まると、残りの日数で引き継ぎ書を作ることになります。ふだんの仕事を続けながら、担当している案件を1つずつ思い出して書き出す。書けるのは、本人が覚えている範囲だけです。
あと2週間で、全部の案件を書き出せるかな…
このお客さまとの約束、どこかに書いてありますか?
後任者が困るのは、引き継ぎ書に書かれていない経緯や、口頭で交わした約束、途中で止まっている仕事です。この記事では、退職や異動のように期限のある引き継ぎに絞って説明します。普段の記録からAIで引き継ぎ書を作り、引き継いだ後も後任者がAIに聞ける状態にする手順です。
この記事のポイント
- 引き継ぎ書は前任者がゼロから書かず、メール・予定表・日報・会議の記録から、案件ごとの経緯・相手・終わっていない仕事をAIが書き出す
- 前任者はAIの下書きを確かめ、記録に残っていない約束や、相手ごとに気をつける点を足す
- 引き継いだ後も、後任者が元の記録にAIで聞ける状態にする。見られるのは引き継ぐ案件の記録だけにし、私用のやりとりは記録しない
引き継ぎ書は、普段の記録からAIが下書きし、前任者が確かめる
退職・異動の引き継ぎにAIを使うときは、引き継ぎ書を前任者がゼロから書かずに、普段の記録からAIに下書きさせます。メール・予定表・日報・会議の記録には、案件ごとの経緯や相手、終わっていない仕事が残っています。AIはそれを案件ごとに分けて書き出します。
前任者は、下書きを確かめて、記録にないことを足します。引き継いだ後も、後任者は引き継ぎ書にないことをAIに聞いて、元の記録まで確かめられます。引き継ぎ書を渡した日で終わりにせず、後任者が後から調べられる形にしておくのがポイントです。
期限のある引き継ぎで抜けやすい4つのこと
退職や異動の引き継ぎは、終わる日が決まっています。限られた日数の中で前任者が思い出して書くと、次の4つが抜けやすくなります。
| 抜けやすいこと | 後任者が困る場面 | 残っていることが多い記録 |
|---|---|---|
| 案件の経緯 | 今の条件になった理由が分からず、お客さまに同じことを聞いてしまう | メールのやりとり、会議の記録 |
| 相手と窓口 | 誰に連絡すればよいか、相手の中で誰が決めるのかが分からない | メールの宛先、予定表の参加者 |
| 約束と期限 | 前任者が口頭で約束したことを知らず、期限を過ぎてしまう | 打ち合わせの記録、お礼のメール |
| 途中の仕事 | どこまで進んでいて、次に何をするのかが分からない | 日報、予定表、作りかけのファイル |
4つとも、前任者の頭の中だけにあるわけではありません。多くは、メールや予定表、日報、会議の記録のどこかに残っています。引き継ぎで足りなくなるのは、それを案件ごとにまとめ直す時間です。
なお、ベテランの技術や判断のコツを、時間をかけて残す方法は、技術伝承の記事や暗黙知の記事で説明しています。この記事は、退職日や異動日が決まっていて、限られた日数で仕事を渡す場面に絞ります。
詳しく解説した記事コラム暗黙知を形式知にするには?ベテランの経験を、仕事をしながら残す方法暗黙知を形式知にするには、普段の仕事の記録や、判断のたびのひと言から少しずつ残すことが大切です。暗黙知と形式知の違い、暗…普段の記録から、案件ごとの引き継ぎ書をAIが書き出す
引き継ぎ書の下書きは、前任者が関わった記録を集め、案件ごとに分けるところから始めます。記録には「どの案件の・誰との・いつの話か」を付け、要約と元の記録を分けて残します。こうしておくと、引き継ぎ書の1行ごとに、もとになったメールや会議の記録を開けます。
普段の記録から、引き継ぎ書ができるまで
- お客さまや社内とのメール
- 予定表の打ち合わせと参加者
- 日報と作りかけのファイル
- 会議の録音と議事録
- 案件ごとの引き継ぎ書の下書き
- 終わっていない仕事と期限の一覧
- 前任者に確かめたい点
経緯は、長い記録を並べるだけでは、後任者が読み切れません。過去の対応が個人のメールに散らばり、毎回調べ直していたBtoB企業へのご提案では、過去の対応を探せる仕組みを考えました。探した結果を「何が起きて、どう対応して、どうなったか」の3行にまとめ、元のメールにも戻れる形をご提案しています。
引き継ぎ書の経緯も同じです。案件ごとに「何が起きて、どう対応して、どうなったか」を3行で書き、元の記録へのリンクを付けます。後任者は、3行で全体をつかみ、気になる所だけ元の記録を読めば済みます。
前任者が確かめて、記録にないことを足す
AIの下書きには、記録に残っていないことは入りません。電話や立ち話で決めたことは、前任者にしか足せません。前任者の仕事は、下書きを確かめて、次の3つを足すことです。
前任者が引き継ぎ書に足す3つのこと
- 記録にない約束電話や立ち話で決めたこと。日付と相手を添えて書く
- 相手ごとに気をつける点連絡してよい時間帯や、決める前に相談が必要な人など
- 止めている仕事の理由相手の返事待ちなのか、社内の判断待ちなのか
AIが前任者に聞き返す形にしておくと、足す作業が短くなります。たとえば「この案件は、6月の見積もりの後にやりとりが止まっています。終わった案件ですか?」のように、記録が途切れている所だけをAIが聞きます。前任者は、聞かれたことに答えるだけで済みます。
AIが「終わった」と書いた仕事は、前任者が実物で確かめます。書類を送ったか、請求書を出したかは、送ったメールや請求の記録を開いて確かめるのが当社のやり方です。確かめられないことを推測で埋めずに「未確認」と書くことも、AIの決まりにしています。
引き継いだ後も、後任者がAIに聞ける状態にする
引き継ぎ書を丁寧に作っても、後任者が困る場面は、引き継いだ後に出てきます。お客さまから過去の話をされたとき、前任者はもう社内にいないかもしれません。そこで、引き継ぎ書に加えて、もとになった記録にもAIで聞ける状態にしておきます。
引き継いだ後に、後任者がAIに聞く(説明例)
このお客さまに、来月の納品について何か約束していますか?
9月の打ち合わせで、来月分は2回に分けて納品すると約束しています。お客さまの倉庫の空きが少ないためです。根拠:9月の打ち合わせの記録/同じ日のお礼のメール
記録に残っていないことは推測で答えず、上長に確かめるよう案内します
特定のお客さまの記録や、実際のAIの出力ではありません。
会議の録音を全文で残しておくと、担当が替わった後に「言った・言わない」で迷う場面が減ります。要約だけを残すと、後から大事になる約束ほど抜け落ちることがあるためです。録音の残し方は、議事録の記事で説明しています。
あわせて読みたいコラム議事録をAIで作るときのポイント|要約で終わらせず、決まったことを後から使える形に議事録をAIで作るときは、短い要約より「決まったこと・担当と期限・経緯」を後から探せる形で残すことが大切です。残す項目、…担当者のPCに記録が散らばっていると、引き継ぎのときに見つからなくなります。当社が構築した素材メーカーの仕組みでは、担当者のPCに散らばっていた開発の記録と報告書を1か所に集めました。営業も開発も聞けばその場で答えが返る形で、削減見込みは月257時間です。
担当者が替わっても仕事を止めないためには、普段から仕事の記録と判断の基準を1か所に集めておくことが近道です。当社のセミナー「AIマーケティング(リスキリング・伴走支援)プロジェクト 事業概要セミナー」でも、同じ考え方をお伝えしました。業務内容・過去の実績・判断基準・よくある質問を集め、担当者が替わってもノウハウが残る状態にする考え方です。

退職・異動が決まってからの進め方と、見られる範囲
引き継ぎは、決まった日から終わる日までの段取りを先に置くと、慌てずに進められます。期間が短いときは、各段階を詰めて進めます。
退職・異動が決まってからの引き継ぎの進み方(例)
- 決まった日引き継ぐ案件と後任者を決める上長が、引き継ぐ案件と後任者を決める。AIが読む記録の範囲もここで決まる
- 前半AIが下書きを書き出す記録から案件ごとの経緯・相手・終わっていない仕事を書き出す。前任者に確かめたい点の一覧もそろう
- 後半前任者が確かめて足すAIの質問に答え、記録にない約束や気をつける点を足す。終わった仕事は実物で確かめる
- 最終日まで後任者と一緒に読む後任者が引き継ぎ書を読み、AIに質問してみる。答えが出なかった点を前任者が足す
- 引き継いだ後後任者がAIに聞く引き継ぎ書にないことは元の記録にAIで聞く。記録にないことは上長に確かめる
前任者のメールや会議の記録を後任者が読むので、誰が何を見られるかを先に決めておきます。後任者が見られるのは、引き継ぐ案件の記録だけです。私用のやりとりは記録の対象にせず、人事評価のような情報も読み込ませません。
退職が急に決まると、引き継ぎに使える記録が足りないこともあります。普段から日報や会議の記録がたまる形にしておくと、引き継ぎのときに慌てずに済みます。日報を案件ごとの記録として残す方法は、次の記事で説明しています。
あわせて読みたいコラム日報のAI活用|書く負担を減らし、集まった日報を仕事に使う方法日報のAI活用は、書く人の手間と読む人の手間の両方を減らすことから始めます。音声や予定から日報の下書きを作る方法、集まっ…マスターブレインを活用した引き継ぎ
マスターブレインは、会社にあるさまざまな情報・業務知識・判断基準を整理し、必要な場面で活用できるように設計する、会社専用のAI基盤です。
メール・予定表・日報・会議の記録を集め、「どの案件の・誰との・いつの話か」を付けて、要約と元の記録を分けて残します。前任者が足した約束や気をつける点も会社に残るので、後任者は専用画面から聞くだけで、元の記録まで確かめられます。仕組みの全体像はマスターブレインの仕組みで紹介しています。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次の引き継ぎは、普段の記録から始めませんか?
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この記事の監修者

AIを活用したシステム開発・業務自動化の専門家。システム開発に10年携わり、GPT-3.5の頃から生成AIを実際の業務に取り入れてきた。基幹システムの刷新から業界に特化したAIサービスまで、本番で動くシステムを設計・構築している。
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- 教育の流れをAIで自動化し、未経験の5人を3か月で開発者として戦力化
主な登壇
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