「どうしてこの案にしたんですか」と聞いても、ベテランからは「なんとなく」「経験かな」という答えしか返ってこない。本人の中には理由があるはずなのに、言葉になって出てきません。こうした知識を、暗黙知といいます。
この提案、どうしてこっちの案にしたんですか?
うーん…なんとなく、経験かな
暗黙知を文章やルールにして、誰でも読める形(形式知)にしたい。当社がご相談を受ける中でも、「暗黙知になっているところを、みんなが聞ける状態にしたい」というお話をよく伺います。この記事では、暗黙知と形式知の違いと、AIを使って暗黙知を形式知にしていく進め方を説明します。
この記事のポイント
- 暗黙知は、経験から身についていて言葉にしにくい知識。形式知は、文章やルールになっていて誰でも読める知識
- ベテランにまとめて書き出してもらう方法は続きにくい。普段の仕事の記録や、判断のたびのひと言から少しずつ残す
- 商品への感性や手の感覚など、形式知にしないものも決めておく。全部を一度に形式知にしようとしない
暗黙知を形式知にするには、仕事の中で理由を残していく
暗黙知を形式知にするには、ベテランに時間を取ってまとめて書いてもらうより、普段の仕事の中で判断の理由が少しずつ残る形にするほうが続きます。会議やメールの記録、判断したときのひと言をAIが集めて整理し、手順書やルールの下書きにします。
ベテランの役割は、AIが作った下書きを確かめて直すことです。直した内容を会社のルールとして追加していくと、暗黙知が1件ずつ形式知になっていきます。
暗黙知と形式知の違い
暗黙知は、経験を重ねる中で身についた知識です。本人は自然にできていても、理由をうまく説明できません。形式知は、文章・図・数字・ルールなどで表されていて、ほかの人が読んで同じように使える知識です。
| 比べる点 | 暗黙知 | 形式知 |
|---|---|---|
| どこにあるか | ベテランの頭の中 | 手順書・ルール・仕事の記録 |
| 例 | 提案の案をどれにするかの見極め、取引先ごとの対応の加減 | 提案の案を選ぶ基準、取引先ごとの対応ルール |
| 伝え方 | 一緒に仕事をしながら、見て覚える | 読んで覚える。AIに質問して確かめる |
| 弱いところ | 本人がいないと使えない。辞めると会社に残らない | 書いた後に変わったことを反映しないと、古くなる |
大事なのは、暗黙知をすべて形式知にする必要はないということです。ほかの人も使える判断の理由や過去の事例は形式知にし、手の感覚や商品への感性のように言葉にしにくいものは、これまでどおり人から人へ伝えます。何を形式知にするかを先に決めると、残す作業がぐっと軽くなります。
暗黙知がなかなか形式知にならない3つの理由
暗黙知を書き残そうとして、途中で止まってしまった会社も多いと思います。止まるのには、よくある理由が3つあります。
暗黙知が形式知にならない3つの理由
- 本人も意識していない長く続けてきた判断ほど自然にしているので、聞かれても理由が出てこない
- 書く時間がないベテランほど忙しく、手順を書き残す作業は後回しになる
- 書き切れない条件ごとの判断を全部書こうとすると量が多すぎて、書き終わらず、更新も追いつかない
3つ目の「書き切れない」は、ご相談の中でもよく伺います。広告の運用を自社で行っている会社では、広告を「広げる・止める・戻す」の判断を条件ごとにルールへ書き出そうとしました。ところが条件の組み合わせが多すぎて書き切れず、書いたルールの更新も追いつかなかったそうです。判断を先に全部書き出そうとするほど、形式知にする作業は止まりやすくなります。
暗黙知を引き出す4つの方法
暗黙知を引き出す方法は、大きく分けて4つあります。共通しているのは、ベテランに白紙から書いてもらわないことです。
| 方法 | やること | 向いている知識 |
|---|---|---|
| 実際の案件で理由を聞く | 案件を1件ずつ見ながら「なぜこうしたのか」を聞く | 例外の扱い、いつもと違う判断 |
| 普段の記録から拾う | 会議・メール・チャットの記録をAIが集め、決まったことと理由を抜き出す | 判断の経緯、取引先とのやりとり |
| 判断のたびにひと言残す | 判断したときに、理由をひと言だけ書いて承認する | 毎日くり返す判断 |
| AIの下書きを直してもらう | AIが作った手順書や回答を、ベテランが確かめて直す | 手順、よくある質問への答え |
書き出してもらう方法と、仕事の中で残す方法
- ベテランが時間を作り、白紙から手順を書く
- 書いた時点の内容のままで、その後の変化が入らない
- 忙しい時期になると止まる
- 会議やメールの記録が、普段どおり仕事をするだけでたまる
- AIが下書きを作り、ベテランは直すだけ
- 判断のたびに、理由が1件ずつ増える
実際の案件で理由を聞く方法は、属人化の記事で詳しく説明しています。会議の記録から決まったことを残す方法は、議事録をAIで作るときのポイントも参考にしてください。
詳しく解説した記事コラム属人化をAIで解消するには?ベテランの判断を会社に残す手順「あの人に聞かないと分からない」仕事をAIで減らすには、ベテランが判断した理由を記録して、AIが使えるようにすることが必…判断のたびに理由が残る仕組みにする
4つの方法の中でも、毎日くり返す判断には「判断のたびにひと言残す」形が向いています。先ほどの広告の運用の会社へのご提案では、次のような流れを考えました。
判断の理由が残っていく流れ(ご提案の例)
- 毎朝AIが確認する広告を並べる前日の数字を集計し、人が見るべき広告だけを出す
- 判断の前AIが判断の候補を示す根拠と、足りない情報を付けて候補を並べる。広告の変更はしない
- 判断するとき人が決めて、理由をひと言残す候補を直すか承認し、なぜそうしたかを書く
- 結果が出たら使い回すかを人が決める結果を見て、ほかの場面でも使ってよい判断だけを承認する
- 次に似たとき過去の判断を表示する前の判断と同じ点・違う点を示し、判断の材料にする
この流れでは、ベテランが判断するたびに、その理由が会社の記録として1件ずつ増えていきます。判断を前もって全部書き出す必要はありません。AIが勝手に判断を覚えることもなく、使われるのは人が承認した記録だけです。
記録がたまった後のやりとり(説明例)
この広告、昨日から反応が落ちています。止めたほうがいいですか?
似た状況が過去に2回あり、どちらも数日様子を見てから判断しています。今回はまだ1日目なので、もう少し待つ候補を出します。根拠:承認済みの判断記録 2件(同じ商品・同じ時期)
「待つ」と決めた場合も、その理由を記録に残します
特定の会社の判断基準や、実際のAIの出力ではありません。
「待つ」という判断も記録しておくと、あとで「なぜ止めなかったのか」を確かめられます。当社では、人が直したことや承認した判断をルール帳に1行ずつ残し、同じことを二度説明しなくてよい形にしています。
形式知にしないものを決めて、小さく始める
暗黙知の中には、形式知にしないほうがよいものもあります。ご相談を受けた通販の会社へのご提案では、商品の感性に関わる部分は人に残すことを、最初に決めました。
形式知にして残すことと、人から人へ伝えること
- 判断の理由と、例外の扱い
- 過去の事例と、そのときの対応
- 決まった手順や段取り
- 会議で決まったことと、その経緯
- 商品への感性や、見せ方の好み
- 手の感覚や力加減
- お客さまとの会話
- 最終的な判断と承認
手の感覚のように言葉にしにくい技能をどう伝えるかは、技術伝承の記事で説明しています。
あわせて読みたいコラム技術伝承にAIを活用する方法|ベテランの知恵を、若手が現場で聞ける形に残す技術伝承にAIを使うときは、手の感覚で覚える技能と、状況を見て判断する知識を分けて考えます。AIで残せる部分、記録と聞き…始めるときは、1つの部署や1つの仕事を選び、効果を確かめてから隣の仕事に広げます。全部を一度に始めると、使い方に慣れる前に止まってしまいます。空いた時間の使い道も先に決めておきます。たとえば「情報共有のための会議を短くして、空いた時間で次の手を決める」のように具体的に決めておくと、効果が分かりやすくなります。
当社が構築した仕組みでも、散らばった記録を集めて使える形にすると、時間の削減が見込めています。素材メーカーでは、担当者のPCに散らばっていた開発の記録と報告書を1か所に集め、営業も開発も質問すればその場で答えが返る形にしました。また、活用方法のページで紹介している企画書づくりの例では、案件の情報を入れると過去の企画書をもとにたたき台を3案作る形にすることで、1本の作成時間が約20時間から約4時間になる見込みです。
当社の構築実績と見込みから
当社のセミナー「AIに『会社の脳』を持たせるには?」でも、施策や経験を会社の知識としてためていく方法をお伝えしました。進め方は導入支援の進め方で紹介しています。
マスターブレインを活用した暗黙知の引き継ぎ
マスターブレインは、会社にあるさまざまな情報・業務知識・判断基準を整理し、必要な場面で活用できるように設計する、会社専用のAI基盤です。
会議・メール・チャットなどの記録は、普段どおり仕事をするだけで集まり、「どの案件・誰との話・いつの話か」を付けて整理されます。要約と元の記録を分けて残すので、判断の前に元の記録を確かめられます。人が直したことや承認した判断は「ルール帳」に1行ずつ追加され、ベテランが判断した理由が会社の記録として残ります。仕組みの全体像はマスターブレインの仕組みで紹介しています。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ベテランの「なんとなく」を、会社の記録に残しませんか?
マスターブレインは、会社の資料・記録・担当者の判断基準を整理し、業務ごとの専用画面から使える会社専用のAI基盤です。まずは資料で全体像をつかむか、御社の業務で相談するかをお選びください。
- 仕組みと、5つの層の役割
- 業務別の活用例と構築実績
- 導入の進め方と、費用の決まり方
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これまでの構築実績から
- 100%検証208問の正答率地域医師会のチャットボット
- 約1/10書類作成時間訪問介護・障害福祉の事業者
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この記事の監修者

AIを活用したシステム開発・業務自動化の専門家。システム開発に10年携わり、GPT-3.5の頃から生成AIを実際の業務に取り入れてきた。基幹システムの刷新から業界に特化したAIサービスまで、本番で動くシステムを設計・構築している。
- AIで業務を効率化し、社員20人で10個以上のサービスを運営
- 教育の流れをAIで自動化し、未経験の5人を3か月で開発者として戦力化
主な登壇
- 製造業の「見えない製造ライン」をカイゼンする2026年9月
- AIに「会社の脳」を持たせるには?2026年8月
- Claude Codeで組織はどう変わる?AI時代の組織設計2026年7月
- 第21回 CONVERSION SUMMITに登壇2026年6月
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