物件の図面を見ながら、面積や賃料、設備を登録画面に1つずつ打ち込む。ポータルサイトから届いた問い合わせには、物件の条件を確かめながら返事を書く。不動産会社の営業は、こうした書く仕事に多くの時間を取られています。
一方で、不動産の仕事は、数字や条件を1つ間違えるだけで、お客さまやオーナーの信頼に関わります。ご相談の中でも、「AIに任せて、情報の正確さを保てるのか」という声をよく伺います。
図面とメールで管理費が違う…どっちが正しいの?
この記事では、物件登録・問い合わせへの返信・契約関連書類・オーナー向け報告書の4つの仕事を取り上げます。それぞれで、AIに任せる下書きと、人が確かめて決めることの分け方を説明します。情報の正確さを保つための確認の決まりも、あわせてまとめました。
この記事のポイント
- 不動産業のAI活用は、物件登録・問い合わせへの返信・契約関連書類・オーナー向け報告書の下書きから始めやすい
- AIの下書きには、どこから読んだかの根拠と、読めなかった項目・食い違う項目の一覧を必ず付けさせる
- 登録・送信・重要事項の説明・契約内容の判断は人が行い、AIは確かめる点を洗い出すところまでにする
不動産業のAI活用は、AIが下書きと確かめる点を出し、人が決める
不動産業でAIを使うなら、AIには下書きと確かめる点の洗い出しを任せ、登録・送信・契約に関わる判断は人が行う形にします。物件登録、問い合わせへの返信、契約関連書類、オーナー向けの報告書は、どれも件数が多い仕事です。過去の書類や登録済みの物件情報を、そのままAIの材料にできます。
正確さを保つには、AIの下書きに根拠を付けさせることが欠かせません。どの図面のどこから読んだか、読めなかった項目はどれか、情報が食い違う項目はどれかを、下書きと一緒に出させます。人はAIが挙げた項目から確かめればよいので、確認の抜けが減ります。
不動産会社でAIに任せやすい4つの仕事
4つの仕事で、AIが作るものと、人が確かめて決めることをまとめます。
| 仕事 | AIが作る下書き | 人が確かめて決めること |
|---|---|---|
| 物件登録 | 図面やオーナーからの連絡をもとにした登録項目の下書きと、読めなかった項目の一覧 | 数字と条件が合っているか、登録してよいか |
| 問い合わせへの返信 | 登録済みの物件情報と会社の返信例をもとにした返信の下書き | 空室や内見の日程、送ってよいか |
| 契約関連書類 | 申込書と物件情報を書類の様式に当てはめた下書きと、食い違う箇所の一覧 | 重要事項の説明、契約の内容、特約の文言 |
| オーナー向け報告書 | 写真と担当者のメモをもとにした報告書の下書き | 現場で気づいたこと、オーナーへの提案、最後の承認 |
どの仕事も、AIが出すのは下書きと確認の一覧までです。登録・送信・契約のように、お客さまやオーナーに届く操作は人が行います。
オーナー向けの報告書については、住宅・不動産の会社からご相談を伺いました。管理物件の報告書を担当者が1件ずつ作り、責任者との差し戻しが何度も行き来しているというお話です。写真と一言のメモ、過去の報告書をもとにAIが下書きする進め方は、次の記事で詳しく説明しています。
詳しく解説した記事コラム報告書作成をAIで効率化する方法|集計・定型文・所見を分けて確かめる報告書作成をAIで効率化するには、数字の集計・決まった文章・所見を分け、作り方と確かめ方を決めることが大切です。月次報告…物件登録:図面から下書きを作り、読めなかった項目を示す
賃貸管理と売買仲介を行う会社へのご提案では、物件の図面から登録の下書きを作る仕組みを考えました。営業が図面を見ながら登録画面に手で入力しており、お客さまと話す時間が削られていたためです。
ご提案では、営業がスマホで撮った図面をAIが読み取り、会社が使っている業務システムの登録の形に整えます。登録の前には必ず人が確かめ、必要なところを直してから登録する形にしました。
物件登録の専用画面(イメージ)
物件登録の下書き
- 図面の写真(スマホで撮影)
- オーナーから届いた条件のメール
- 登録項目の下書き(面積・間取り・賃料・管理費・設備)
- 読み取れなかった項目(例:バルコニーの面積)
- 図面とメールで食い違う項目(例:管理費)
読み取れなかった項目を、AIに推測で埋めさせないことが大切です。空欄のまま「未確認」と示させ、人が図面やオーナーに確かめてから入れます。図面とメールで金額が違う項目も、どちらが正しいかはAIに決めさせず、人が確かめます。
同じ物件を複数のポータルサイトに入れ直す手間も、住宅・不動産のフランチャイズ加盟店網へのご提案で挙がった課題です。1回確かめた登録内容から、ポータルごとの入力の形に合わせた下書きを作れば、確かめる作業も1回で済みます。
図面から数字を読み取る仕組みは、当社が建設資材のレンタル会社で構築した例があります。図面のスキャンから数量を拾って見積の形まで出し、人は確認して承認するだけにした仕組みで、削減見込みは月341時間(2.1人分)です。
ほかの業種での使い方は、マスターブレインの活用方法で紹介しています。
問い合わせへの返信:登録済みの物件情報だけをもとに下書きする
ポータルサイトや自社のホームページから届く問い合わせには、できるだけ早く返事をしたいものです。ところが、営業が外出していると、返事が夜になってしまいます。
返信の下書きは、登録済みの物件情報と、会社で決めた返信の例だけをもとに作らせます。空室かどうかや内見できる日のように日々変わる情報は、AIが推測で書かないようにします。分からないことは「確認してご連絡します」と書き、担当者に回します。
問い合わせへの返信の下書き(説明例)
このお問い合わせに返信の下書きを作ってください。ペットを飼えるかと、土曜の内見の希望です。
ペットは「小型犬1匹まで可」と登録されています。土曜の内見は、空き状況が登録にないため「日程を確認してご連絡します」と書きました。根拠:物件の登録情報(ペットの条件)/会社の返信例「内見の希望」
内見の日程は、担当者が確かめてから返信を送ります
住宅・不動産のフランチャイズ加盟店網へのご提案でも、お客さまへの連絡は送る前に人が確かめる形をお示ししました。AIが用意するのは返信の下書きまでで、送るのは担当者です。
問い合わせを、AIが答えてよいものと人が対応するものに分ける方法は、次の記事で説明しています。
あわせて読みたいコラム顧客からの問い合わせ対応をAIで効率化する方法|人に引き継ぐ設計お客さまからの問い合わせ対応をAIで効率化するには、AIが答えてよい範囲と人に引き継ぐ条件を先に決めます。回答の下書きの…契約関連書類:下書きと、確かめる点の一覧まで
契約の前には、申込書・物件の情報・書類の様式を見比べながら、書類をそろえます。賃料や入居日、特約のように、1か所の書き違いが後のトラブルにつながる項目が並びます。AIに任せるのは、書類の下書きと、確かめる点の洗い出しまでです。
契約関連書類での、AIと人の受け持ち
- 申込書と物件の登録情報を、会社の書類の様式に当てはめて下書きする
- 申込書と物件情報で食い違う項目を一覧にする(賃料・入居日・駐車場の有無など)
- 過去の似た契約と違う箇所や、空欄のままの項目を挙げる
- 重要事項の説明
- 契約の内容と条件の判断
- 特約の文言
- 法律の解釈が必要な判断
重要事項の説明や、契約の内容をどうするかの判断は、これまでどおり人が行います。法律の解釈が必要な判断も、AIには任せません。AIが出す一覧は、人が確かめる順番を示すための材料です。
確かめる点の一覧は、会社として「契約の前に必ず見る項目」を決めておくと作りやすくなります。書き直しになった箇所をルール帳に1行ずつ残すと、同じ書き違いを二度見落とさずに済みます。

正確さを保つ確認の決まりと、始め方
不動産の仕事でAIを使うときに、最初に決めておきたい確認の決まりをまとめます。
物件情報の正確さを保つ4つの決まり
- 根拠を付けるどの図面・どのメールから読んだかを、下書きと一緒に示す
- 推測で埋めない読めない項目や登録にない情報は「未確認」と書く
- 食い違いは人が決める図面とメールで違う項目は一覧にし、どちらが正しいかは人が確かめる
- 直したらルール帳へ人が直した点を1行ずつ残し、同じ誤りを繰り返さない
自動で照らし合わせる仕組みがあっても、人の最終確認は省きません。当社のセミナー「Claude Codeで、何ができるのか?」でも、自動のチェックがあっても人の最終確認はなくならないとお伝えしました。どこで人が確かめるかを、仕事ごとに先に決めておきます。
物件の情報は、賃料の改定や入居者の入れ替わりで変わります。AIが古い情報で下書きしないように、物件情報を更新する担当者を決めておきます。申込者の個人情報は、部署や役職ごとに見られる範囲を分け、AIに読ませる情報も会社で決めます。
始めるときは、4つの仕事のうち、いちばん時間がかかっているもの1つから始めます。賃貸管理と売買仲介の会社へのご提案でも、まず1つのチームで物件登録の仕組みを試す順番をお示ししました。実際の件数と時間で、効果を確かめるためです。
1つの仕事で削減できた時間を確かめてから、次の仕事に広げます。進め方は、マスターブレインの導入支援で紹介しています。
マスターブレインを活用した不動産業の書類づくり
マスターブレインは、会社にあるさまざまな情報・業務知識・判断基準を整理し、必要な場面で活用できるように設計する、会社専用のAI基盤です。
物件の図面、オーナーとのやりとり、登録済みの物件情報、過去の契約書類や報告書を、今の置き場所のままつないで整理します。営業は物件登録や返信の下書きのための専用画面から使い、登録・送信・契約の判断は人が行います。人が直した内容はルール帳に1行ずつ残り、使うほど会社の確認のやり方に沿った下書きになります(マスターブレインの仕組み)。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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この記事の監修者

AIを活用したシステム開発・業務自動化の専門家。システム開発に10年携わり、GPT-3.5の頃から生成AIを実際の業務に取り入れてきた。基幹システムの刷新から業界に特化したAIサービスまで、本番で動くシステムを設計・構築している。
- AIで業務を効率化し、社員20人で10個以上のサービスを運営
- 教育の流れをAIで自動化し、未経験の5人を3か月で開発者として戦力化
主な登壇
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