なぜ今LTV基準なのか?楽天広告運用のトレンドと課題
近年、楽天市場を含むEC業界ではLTV(顧客生涯価値)の重視がトレンドとなっています。人口減少や消費者ニーズの多様化で新規顧客獲得が難しくなり、既存顧客の価値を最大化するLTV指標に注目が集まっているのです。楽天市場に出店する企業でも、短期的な広告ROIだけでなく長期的な利益に目を向け、リピート購入や客単価向上によるLTV向上施策へシフトする動きが増えています。
一方、楽天内の広告競争は激化しており、広告単価の上昇が課題となっています。限られた広告枠を巡る入札競争でCPC(クリック単価)が押し上げられ、楽天広告費用が高く感じられる状況です。実際、楽天市場では2024年から検索システムがセマンティックサーチ(キーワードにマッチしたものだけを探すのではなく、ユーザーの検索意図を汲み取って、それに見合った検索結果を表示する仕組み)に本格的に導入されており、関連キーワードが幅広くマッチするようになった結果、想定外にRPP広告予算の消化ペースが速まるケースも発生しました。
このような環境変化により、「短期的な売上」だけを指標に広告運用すると利益を圧迫するリスクが高まっています。そこで、一人の顧客から生涯得られる利益(LTV)を基準に広告投資判断を行い、長期的に利益が出る施策に注力することが重要になってきたのです。
LTVの定義と楽天市場における算出方法
LTVの基本的な定義
LTV(Life Time Value/顧客生涯価値)とは、ひとりの顧客が企業にもたらす生涯の総収益を指します(※楽天などECでは「一生涯」は長すぎるため1年間など一定期間で区切って算出するケースが一般的です)。
基本的な計算式は「平均購入単価 × 粗利率 × 平均購入頻度 × 継続期間」で求めることが多く、1人の顧客が平均で何回購入し合計いくら使うか(かつ利益ベースで)を算出します。
楽天市場でのLTV算出方法
例えば楽天市場の受注データからLTVを求める場合、RMSから1年間の注文データをダウンロードし、「注文日」「顧客メールアドレス」「購入金額」を抽出してピボット集計する方法があります。こうすることで顧客ごとの年間購入回数と年間購入金額が算出でき、それをもとに平均LTVを計算できます。
集計の際は、1回の注文に複数商品が含まれるとデータが重複するため重複行の削除が必要になる点に注意しましょう。
商品別LTVの重要性
楽天市場では「顧客別LTV」だけでなく「商品別LTV」の視点も重要です。【商品別LTV】とは、特定の商品を最初に購入した顧客がその後どれだけリピート購入するか、クロスセルで関連商品を買うかなど、商品ごとに見た顧客生涯価値と言えます。
例えば楽天の分析ツールでは「特定商品を入口にした場合の平均LTV」を計算することが可能で、ある商品を購入した顧客の平均購入単価や平均購入回数からその商品に紐づくLTVを算出できます。
また、楽天市場向けのLTV分析ツール「リピトラ(RepeaTracker)」では、商品別のLTV計測や商品別のクロスセル傾向を自動で可視化でき、「その商品に広告予算を投下すべきか」の判断材料が得られます。つまり商品ごとにリピーター化しやすい商品か、一度きりで終わりがちな商品かを把握でき、顧客LTVの高い商品・低い商品を見極められるのです。
RPP広告の基本と楽天RMSでの広告運用データ取得
楽天RPP広告とは
楽天RPP広告、簡単に言うと楽天市場内の検索連動型リスティング広告です。楽天市場でユーザーが検索した際、検索結果ページの最上部(PCでは上部5枠、スマホでは上部7枠)に「PR」と表示される商品枠があり、これがRPP広告に当たります。
出稿したい商品のキーワードと入札額を設定すると、その条件に応じて検索結果やジャンルページ等に広告商品が表示され、楽天市場内で高いクリック率が期待できます。料金体系はクリック課金型(CPC)で、月額予算5,000円~、入札単価は最低10円~設定可能と比較的少額から始められるのも特徴です。
実際、楽天市場で売上を伸ばすにはRPP広告での露出強化が「マスト」と言われるほど重要な施策です。
楽天RMSでのデータ取得方法
RPP広告の効果検証や最適化には、楽天RMS内の広告レポート(パフォーマンスレポート)を活用します。RMSの「検索連動型広告(RPP)」管理画面からパフォーマンスレポートを表示・ダウンロードでき、広告費用に対する売上(ROAS)など重要なデータが確認可能です。
パフォーマンスレポートでは商品別やキーワード別など様々な切り口で広告成果を分析できますが、画面上では最新の上位10件程度しか表示されないため、全データを見るにはCSVをダウンロードする必要があります。
具体的には、RMSの広告メニューから「全商品レポート」や「全キーワードレポート」を指定期間で出力し、Excelなどで集計・分析します。レポートでは広告クリックから何時間以内の購入を成果に含めるかを12時間と720時間(30日)の2種類で確認でき、広告経由で他の商品が売れた場合も成果に含まれることに留意が必要です(※広告掲載商品以外の売上も広告効果に計上される仕様)。
LTV × RPPの運用手順(許容CPA・入札判断などの設計)
許容CPAの設計
LTV基準でRPP広告を最適化する際は、まず新規獲得に投下できる広告コストの基準を設計します。基本原則は「1人の顧客を獲得するための広告費は、その顧客のLTV以下に抑える」ことです。
言い換えれば、生涯で得られる利益を上回るコストをかけて新規顧客を獲得していては赤字になるため、LTVを上限として逆算で許容CPA(顧客獲得単価)を定めます。
例えば、ある商品の顧客あたりLTVが12,000円(粗利ベース)だとします。この場合、利益のうち例えば30%(=3,600円)を広告費に充てると決めれば、1人当たりの許容CPAは3,600円となります。その商品で月に新規購入者が50人見込めるなら、広告予算は50人 × 3,600円 = 月額18万円が目安になります。
入札単価(CPC)の上限設定
次に、設定した許容CPAに基づき入札単価(CPC)の上限を決めます。一般に、許容CPA × コンバージョン率(CVR) = 上限CPCの関係で考えると分かりやすいです。
例えば先ほどのCPAが3,600円で、RPP広告経由の平均CVRが10%(10クリックに1件購入)なら、上限CPCは3,600円 × 10% = 約360円となります。この計算式に基づき、商品ごとに「この商品なら1クリックあたり◯円まで入札しても利益が出る」というラインを算出し、RPP広告の商品CPCやキーワードCPCを設定します。
実際の運用とモニタリング
実際の運用では、楽天RPP広告のパフォーマンスレポートを定期的にチェックし、設定したCPAやCPC内に収まっているか検証します。【RMSのレポート上で確認できる指標】としては、新規顧客ベースの「広告経由CPA(注文獲得単価)」や「平均CPC」があるため、これらの実績値と自社の基準を比較しながら入札額を調整します。
例えば「想定より実績CPCが高い商品があれば入札単価を引き下げる」「CPAが目標を上回っているキーワードは入札除外する」といった調整です。
また、商品ごとに収支が合うライン(損益分岐ROAS)は異なります。粗利率やリピート率が高い商品ほど多く広告費を投下できますが、利益率が低い商品は高いROASを維持しないと赤字になります。
長期的な投資判断
LTVを基準に入札判断することで、短期的には赤字でも将来的にリピートで黒字化できる商品を積極的にプロモーションすることが可能になります。例えば「初回購入では赤字だが、定期購入で数回買ってもらえれば利益が出るサプリメント商品」などは、LTVを考慮すれば広告を拡大すべきケースです。
しかしLTVを把握していないと、表面的な赤字にとらわれて広告を停止してしまい、実は長期的利益を生むはずの顧客獲得機会を失う恐れがあります。各商品の真の収益力をLTVで捉え、「今は投資すべき顧客・商品か?」を基準に入札可否を判断することが、RPP広告の最適化で重要なポイントです。
成功パターンの事例とその改善インサイト
リピート率の高い商品への集中投資
LTV基準での運用を取り入れることで、楽天広告の成果を飛躍的に高めたケースも出てきています。成功パターンの一つは、リピート購入率が高い商品を見極めて広告投下する戦略です。
楽天RMSの「店舗カルテ」機能などでリピート率の高い商品を把握し、そうした商品は積極的に広告露出を増やします。リピーターを獲得しやすい商品に集中投下することで顧客あたり購入回数が増え(LTVが向上), 長期的に見て店舗全体の売上底上げが期待できます。
新規顧客獲得の先行投資型戦略
また、新規顧客獲得を先行投資と位置づけた成功例も見られます。ある運用では、RPP広告の目的を「利益回収型」ではなく「先行投資型」と割り切り、新規顧客獲得=LTVを設定して数年単位で利益回収するという発想で広告を出稿しました。
具体的には、「1人当たり○円まで獲得コストを許容するが、それは○年で回収できる見込み」とシミュレーションし、短期では赤字でも長期的にプラスになると判断した商品に思い切って予算を投下しています。結果として新規顧客基盤を拡大し、数年スパンで見た利益成長につなげることに成功しました。
データに基づくメリハリのある予算配分
実務上の改善インサイトとして挙がっているのは、データに基づくメリハリのある予算配分です。楽天SOY受賞店舗の事例では、「この商品のLTVが高いから、積極的に予算をかけよう」といった判断をデータ分析から導き出し、予算投下のメリハリを付けています。
LTVの高い看板商品には広告費を惜しまず投入し、逆にLTVの低い商品は広告ではなく他の販促に回すなど、商品ごとに異なる戦略を取っています。その結果、広告費用対効果の高い商品群で効率よく新規顧客を獲得しつつ、全体のLTVを底上げすることに成功しています。
クロスセル・アップセルの活用
さらに、クロスセルやアップセルの活用もLTV最大化の重要なポイントです。リピート率向上だけでなく、「この商品を買った人は次に何を買うか」というデータを活用して関連商品の提案やセット販売を行うことで、一人当たり売上を伸ばす施策です。
実際のインタビューでも、「LTVを意識してクロスセル・アップセルが見込める仕組みづくりを目指している」と語られており、単品の売上や一回の購入利益ではなく、顧客生涯での総合的な利益を伸ばす視点が成果を出す鍵だと分かります。
注意点とつまずきポイント(短期回収思考・データ誤読など)
短期回収思考の罠
LTV基準で広告運用する際に気をつけるべきポイントもいくつかあります。まず陥りがちな短期回収思考です。広告の効果を初回購入の損益だけで判断し、「広告費用対効果が合わないからすぐ停止」としてしまうケースがあります。
しかし初回だけで赤字でも、その後のリピート購入で十分黒字化できる顧客も多く存在します。広告効果を一回きりの収支で判断すると、長期的に利益をもたらす顧客獲得のチャンスを逃してしまう可能性があります。実際、「初回購入だけで広告効果を判断すると、長期的には利益を生み得たはずの顧客を取り逃す」という指摘もあり、LTV視点で顧客価値を捉えることが持続的な広告投資には欠かせません。
データの読み違い(誤読)への注意
次にデータの読み違い(誤読)にも注意しましょう。楽天RPP広告のパフォーマンスレポートでは、広告経由の売上は「広告をクリックした後に発生した購入」すべてが含まれます。つまり、広告に出している商品Aをクリックしたユーザーがそのまま別の商品Bを購入した場合でも、商品Aの広告経由売上としてカウントされます。
この仕様を知らないと「広告商品Aで○円売れた」と勘違いしてしまいがちですが、実際には店舗内回遊による他商品の売上も含まれるため注意が必要です。効果検証の際は、レポートの集計条件(計測期間やクロスデバイス計測含むか等)を正しく理解し、広告と売上の因果関係を見誤らないようにしましょう。
LTV算出時のデータ処理ミス
また、LTV算出時のデータ処理ミスにも注意点があります。受注データからLTVを計算する際に同一注文の重複行を除外し忘れると、購入金額を二重カウントして誤ったLTVを算出してしまいます。特に楽天では1注文で複数商品を買うケースも多いため、データをExcelなどで加工する際はユニーク顧客ごとの購入回数・金額を集計するように心がけてください。
さらに、粗利ベースと売上ベースの混同もありがちです。LTVは本来「利益」の総額で考えるべきですが、商品原価や楽天の手数料を考慮せず売上ベースで計算すると、正確な投資判断を誤る可能性があります。粗利率を乗じて利益ベースのLTVを使うこと、そして自社の利益率が商品ごとに違う場合は商品別にLTVを算出することが大切です。
短期施策とのバランス
最後に、短期施策とのバランスにも触れておきます。LTV重視とはいえ、楽天スーパーSALEなど短期的に大量集客・売上が見込める局面では、一時的に広告費を増額してシェア獲得に動く戦略も必要です。
その際も、例えば「SALE期間中だけポイント還元やクーポンを充実させリピート率向上を図る」「イベント後にフォローメールで次回購入につなげる」など、短期施策を長期のリピートに結びつける工夫を忘れないようにしましょう。短期と長期の視点を統合して運用することで、広告の投資対効果を最大化できます。
LTV分析の効率化ツール(楽天RMSで使えるもの、リピトラなど)
楽天RMS標準機能
楽天市場のデータ分析やLTV活用を支援するツールも数多く登場しています。まず楽天RMS自体にも基本的な分析機能があり、たとえば「店舗カルテ」では自店のリピート率や客単価などを確認できます。店舗カルテ内の「商品分析」では商品ごとのリピート購入率を把握できるため、リピーター獲得に貢献している商品を特定するのに役立ちます。
外部ツールの活用
こうしたRMS標準機能に加え、より高度な分析や効率化を実現する外部ツールの活用も効果的です。代表的なものの一つが、E-Grant社の提供する「うちでのこづち for 楽天」やLTV、クロスセル分析に優れた「リピトラ(RepeaTracker)」などのツールです。
楽天では近年APIが開放されつつあるものの、自社でシステム開発やデータ連携を行うのは容易ではなく、広告効果分析やLTV算出に手作業が多いという課題があります。実際、楽天SOY受賞店舗の担当者も「広告効果やLTV分析の効率化が課題だったが、ツール導入でデータ活用がスムーズになった」と述べています。
リピトラ(RepeaTracker)の特徴
特に当社の提供するリピトラ(RepeaTracker)は楽天ショップ向けに開発されたLTV・クロスセル分析ツールで、RMSだけでは見えない顧客の長期的購買行動や商品の関連購入傾向を自動分析してくれます。キャッチコピーにもある通り、「LTVもクロスセルも自動で可視化」し、売上機会の取りこぼしを防ぐことを目的としています。
具体的には、商品別の累計購入金額や平均購入回数、他に併買されやすい商品組み合わせなどがダッシュボード上に示されます。これにより「各商品の真の稼ぎ頭度合い」が一目で分かり、「LTVが高いこの商品にはもっと広告予算を割こう」「クロスセル効果の高い組み合わせをセット販売しよう」といった戦略立案をデータに基づいて行えるようになります。
ツール選定のポイント
ツール選定の際は、自社のリソースや予算、分析ニーズに応じて検討しましょう。小規模店舗であればまずRMSの標準レポートとExcel分析でも十分対応可能ですし、分析に時間を割けない場合は外部ツールやコンサル会社の力を借りるのも一策です。
重要なのは、LTVのモニタリングとそれに基づく施策を継続的に回せる体制を整えることです。ツールはあくまで手段ですので、自社に合った形でデータ活用を仕組み化していきましょう。
まとめ(利益視点の広告評価への転換)
楽天RPP広告をLTV基準で最適化する考え方と手法について解説してきました。ポイントは、広告の成果を即時の売上ではなく長期の利益で評価する視点への転換です。広告予算の設定から入札判断、効果検証まで一貫して「この施策は長期的にプラスになるか?」を軸に意思決定することで、広告運用の質が飛躍的に向上します。
LTVを踏まえれば、一時的なROAS(広告費回収率)だけでは測れない真の投資対効果が見えてきます。逆にLTV無視のままでは、獲得した新規顧客から十分な利益を得られず広告費が無駄になるか、あるいは将来の優良顧客を逃してしまう恐れがあります。
投資視点での広告運用
最後に改めて強調すると、広告で新規顧客を獲得する費用は、その顧客のLTV以下でなければ利益が出ないという原則があります。短期的な売上アップ施策に追われていると忘れがちですが、広告を本当の意味で投資(Investment)と捉えるならば、投資回収期間を含めた利益計算=LTVの視点が不可欠です。
【利益率・リピート率を考慮した広告投資】へ発想を切り替えることで、広告の役割も「単なる集客コスト」から「将来顧客への投資」へと位置づけが変わります。これにより、たとえ一時的に広告費がかさんでも将来の収益で回収できる見込みが立つなら攻め、見込みの薄いところは引くといった戦略的な運用判断が可能になります。
今日から始められる実践ステップ
幸い楽天市場には豊富なデータとツールが揃っており、LTV基準の広告運用に挑戦する土壌は整っています。今日からでも、まず自社の顧客LTVを計測し、主要商品のLTVと広告費のバランスをチェックしてみてください。
そこから見えてくる課題(例:「ある商品のCPAがLTVを上回っている」「リピート購入をもっと促進できる余地がある」等)に対して、一つ一つ施策を講じていけば、広告が真に利益を生むエンジンへと変わっていくでしょう。
長期的な視野で顧客との関係を育みつつ、データドリブンに広告を最適化することで、楽天市場ビジネスの持続的な成長を実現していきましょう。
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