LTVとは?楽天市場で“利益が出る広告運用”を実現するための基礎知識

2025年07月08日

楽天市場の広告環境の変化と課題

競争の激化、広告費の高騰、CPA重視の限界

楽天市場では年々出店者が増加し、広告枠の争奪戦が激化しています。その結果、クリック単価(CPC)をはじめとする広告単価が上昇し、広告費が高くなる傾向にあります。実際、限られた広告枠を多くの店舗が奪い合う入札方式のため、競争激化が広告費用の高騰を招いていると指摘されています。特に楽天の検索連動型広告(RPP広告)では、大手企業も含めた激しい競合入札により広告費用が高騰する場合があると報告されています。このような状況下では、従来の手法で十分な収益を得ることが難しく、広告運用にはより戦略的なアプローチが求められます

さらに、多くの企業が広告の費用対効果指標としてCPA(顧客獲得単価)やROASなど短期的な数値を重視してきました。しかしCPAだけに注目する手法には限界が見えてきています。CPA目標を厳守すれば短期的には成果(コンバージョン数増加)を上げられるものの、それだけでは長期的に利益が残らないケースが多いのです。

例えば、初回購入時に大幅割引をしてCPAを下げても、それ目当ての”一度きりの顧客”ばかりではリピート購入につながらず利益が出ません。CPA重視の広告運用は短期的に有効でも、長期的には行き詰まると指摘されています。このように、競争とコストが激化する楽天市場の広告環境では、一回きりの獲得効率よりも顧客の生涯価値(LTV)に目を向けた戦略への転換が求められています

LTVとは何か?ECにおける重要性

LTVの基本的な定義と役割

LTV(顧客生涯価値, Life Time Value)とは、一人の顧客が企業にもたらす生涯の総利益を表す指標です。簡単に言えば、「顧客一人が取引開始から終了までに企業にもたらす累計の利益額」を数値化したものです。

ECビジネスの場合、顧客が一生涯にわたってもたらす利益を厳密に測るのは難しいため、一般的には1年間など期間を区切って算出することも多くなっています。たとえば楽天市場などでは「年間の顧客価値」をLTVの目安にするケースが多く、自社の商材に応じて期間を設定します。

なぜECでLTVが重要視されるのか

LTVはCRM(顧客関係管理)戦略の中核となる概念であり、マーケティングにおいて極めて重要な役割を担います。LTVを理解し高める施策を講じることは、顧客との長期的な関係構築につながり、EC事業の持続的成長に直結します。

特に現在は市場の成熟化や商品・サービスのコモディティ化により新規顧客の獲得が以前にも増して困難になっています。そのため既存顧客から長期に利益を得ることができるLTV指標があらゆる業種で重視されており、ECにおいても効果的な広告活用に欠かせない指標といえるでしょう。

ECでLTVが重要視される理由は、新規顧客獲得コストと既存顧客維持コストの差にも表れています。一般的に「新規顧客の獲得には既存顧客の維持の5倍のコストがかかる」と言われ、逆に既存顧客の維持には新規の20%程度の費用(1/5以下)で済むとも報告されています。

このように既存顧客を大切にしてLTVを向上させることは、広告費の高騰する現在の環境下で収益性改善に直結します。実際、LTVが向上するということはリピーター(常連客)が増えることを意味し、取引回数や取引期間が延びて安定した売上基盤をもたらすためです。

以上の理由から、楽天市場のようなECプラットフォームで利益の出る広告運用を実現するには、顧客一人ひとりのLTVを把握し、長期的視点で顧客価値を最大化することが不可欠なのです。

楽天市場でのLTVの計算方法

RMSなどで取得可能なデータを活用した計算

LTVの基本的な計算式はシンプルで、以下のように表されます:

LTV = 平均購入単価 × 購入頻度 × 継続購入期間

例えば、全顧客の平均購入単価が5,000円、購入頻度が年6回、平均的な継続購入期間を2年と設定した場合、
LTV = 5,000円 × 6回 × 2年 = 60,000円
となります。このように基本的な売上データがあれば概算のLTVを算出できます。

まずこの式で自社顧客全体の平均的なLTVを把握し、そこから部門別や商品カテゴリー別に分析を深めることで経営実態の俯瞰が可能です

RMSを活用した詳細な分析方法

しかし、この平均値ベースの算出方法だけでは顧客ごとのLTVを把握できず、優良顧客の特定や顧客行動パターンの分析には不向きです。楽天市場の店舗運営者は、より精緻なLTV分析のためにRMS(楽天の店舗管理システム)から受注データを抽出して顧客単位で集計することができます。

具体的には、RMSから1年分の受注データをダウンロードし、「注文日」「顧客のメールアドレス」「注文合計金額」などの項目を抜き出して加工します。同一顧客(同一メールアドレス)の注文をまとめ、Excelのピボットテーブル等で集計すれば、各顧客の年間購入回数や年間購入金額を算出可能です。

継続期間を考慮した計算事例

リピート商材(定期購入や消耗品など)の場合は、個々の顧客の購買金額と継続期間からLTVを算出する方法も有効です。例えば、

  • 顧客A:「年間20,000円」を3年間継続購入した場合 → LTV=60,000円
  • 顧客B:「年間30,000円」を1年間だけ購入した場合 → LTV=30,000円

一見すると1年間の購買額が大きい顧客Bが優良客に思えますが、中長期では継続して購入してくれる顧客Aの方がもたらす売上は高いことが分かります。

また売上LTVの算出にとどまらず、粗利益ベースでのLTVまで把握することに努めましょう

LTVを広告運用に活かす戦略

許容CPAの算出と活用

LTV志向の広告戦略では、まず顧客一人当たりに投下できる許容CPA(許容できる顧客獲得単価)を算出し、それに基づいて予算配分や入札額を調整します。

許容CPAとは「その顧客から得られる生涯利益を前提に、赤字にならない範囲で1人獲得に投資できる上限コスト」のことです。一般に許容CPA=LTV×広告費率で求められます。

例えば「LTVが30,000円」で「売上の10%まで広告費を投下して良い」と設定した場合、
許容CPA=30,000円×10%=3,000円
となります。

RPP広告での活用方法

楽天RPP広告のようにクリック課金型の広告では、さらに想定CVR(コンバージョン率)を加味して上限CPC(入札単価上限)を決めることも可能です。

先ほどの例で想定CVRを10%(広告経由の訪問者10人に1人購入)とすると、
上限CPC=許容CPA×CVR=3,000円×10%=300円
となります。

つまり1クリック当たり300円まで入札しても、最終的には顧客当たり3,000円以内の獲得コストに収まり利益が出る計算です。

このようにLTVから逆算したCPAやCPCを指標に運用すれば、短期的なROASにとらわれず長期的に見て利益の出る広告投資が可能になります

アップセル・クロスセル戦略

アップセル(より高価格帯商品の提案)やクロスセル(関連商品の追加提案)といった施策もLTV向上による広告効率改善に貢献します。

具体的には、初回購入時やその後のフォローにおいて、現在の商品より上位モデル・高額商品の購入を促す「アップセル」や、購入商品に関連するアイテムも合わせて提案する「クロスセル」の施策が効果を発揮します。

これらの施策により1回の注文あたりの売上が増え、結果的に顧客のLTVが向上します。LTVが上がれば許容できるCPAも引き上げられるため、再び広告投資の余地が広がる好循環が生まれます

LTV活用で成果を出した代表的な施策

LTVを重視した施策を導入し、顧客あたり利益の最大化に成功した事例が各所で報告されています。以下に代表的な例を匿名ベースで紹介します。

業界別成功事例

  • 大手アパレル企業の事例:全社的にLTV向上を経営戦略の柱に据え、店舗・EC・商品開発まで横断した顧客施策を実行した結果、3年間で顧客LTVを135%に伸長させることに成功しました。
  • ECサイトA社の事例:サイト上でのレコメンデーションをAIで最適化したところ、リピート購入率が15%向上したとの報告があります。
  • ECサイトB社の事例:既存顧客のデータ分析に基づき、関連商品のおすすめ(クロスセル)キャンペーンを実施した結果、平均購入単価が約15%上昇したケースがあります。
  • 食品定期通販の事例:ある定期購入サービスでは、初回購入時に次回使えるクーポンを配布し継続率を高めたり、24時間対応の顧客サポートで顧客満足度を向上させたりすることで、解約率を15%低下(継続期間延長)させた例が報告されています。

これらの事例が示すように、LTVを軸に据えた戦略的な施策は新規・既存問わず顧客から引き出せる価値を高め、収益性を改善します。特に楽天市場のようにポイント施策やメールマーケティングなど顧客リレーションの機会が多いプラットフォームでは、LTV向上施策の余地が大きく、競合との差別化にもつながっています。

LTV活用における誤解・注意点

LTVは強力な指標ですが、その活用にあたってはいくつか注意すべきポイントがあります。正しく理解しないと、せっかくのLTV戦略が的外れになったり、最悪の場合ビジネスの収益を損ねたりする可能性もあります。

利益までの追及の重要性

まず避けたいのはLTVの理解を売上高のみで評価してしまうことです。一般的にはLTVは「顧客生涯価値」としてその顧客から発生した売上のみで評価されがちですが、そこで留めずにその顧客が購入した商品原価や各種経費を差し引いた粗利益まで追及して算出すべきです。

売上高だけで計算すると実際の利益以上に投資余力があるように錯覚してしまい、広告費をかけすぎて赤字になる恐れがあります。

平均値への過度な依存

LTVを語る上で平均値は有用ですが、平均だけを見て意思決定するのは危険です。平均LTVが例えば30,000円だからといって、すべての顧客が一様に30,000円の価値を生むわけではありません。

実際にはごく一部の優良顧客が平均を大きく上回るLTVを持ち、反対に一度きりで離反する顧客もいるという分布になります。平均のみを重視するとこうしたばらつきを見落としてしまい、優良顧客への適切なリソース配分や、低LTV層への対策立案が遅れる可能性があります。

セグメント設計のミス

顧客セグメントの切り方を誤るとLTV活用の効果も半減します。よくある間違いは、購買金額や頻度など一つの指標だけで顧客をランク分けしてしまうことです。

例えば「年間購入額が高い顧客=優良」という単純なセグメントでは不十分な場合があります。前述の例では、年間購入額だけ見れば顧客B(30,000円/年)の方が顧客A(20,000円/年)より優良に見えましたが、長期的にはAの方が価値が高かったように、購買頻度や継続期間を含めて評価しないと誤った分類につながります

したがって、セグメント設計時にはRFM分析(Recency, Frequency, Monetary)など複数の軸で顧客を類型化し、各セグメントのLTVや離反率を検証することが望まれます。

まとめ・導入への第一歩

LTVを可視化する必要性

楽天市場における広告運用で利益を最大化するためには、目先の指標だけでなく顧客のライフタイムバリュー(LTV)を軸に据えた長期的視点が欠かせません

競争が激化し広告費が高騰する現在、初回購買での利益確保に捉われすぎる手法は持続可能性に限界があります。本コラムで述べてきたように、LTVを重視することで許容CPAの拡大や入札戦略の柔軟化が可能となり、結果的により多くの顧客を獲得して利益を上げるサイクルを回すことができます。

今日から始められる第一歩

このようなLTV起点の広告運用を実現するために、まず取り組むべき第一歩が「自社の顧客LTVを可視化する」ことです。自社の顧客が平均どれくらいの期間で、どれだけの金額を購入しているのか、データに基づいて把握することが出発点になります。

幸い楽天市場ではRMSから詳細な購買データを取得できるため、本コラムで触れた方法でまず現状のLTVを算出・モニタリングしてみましょう。

LTVおよびそれに基づく限界CPA(許容CPA)を見える化できれば、広告予算の適正配分や入札上限の設定に明確な指針が生まれます。実際、広告予算策定や入札競争の場面では、LTVと限界CPAの指標があるか否かで最適な判断に大きな差が出ると指摘されています。

まとめとして、LTVを正しく理解し活用することが楽天市場における”利益が出る広告運用”の鍵です。まずは自社データからLTVを算出し、現状を把握することから始めてください。その上で、本書で述べたようなLTVに基づく指標管理(CPA・CPC設定)や顧客育成施策を少しずつ取り入れてみましょう。

最初は手探りでも、PDCAを回しつつ自社に合った方法を見つけていくことで、やがてLTV重視の広告運用が大きな成果につながるはずです。今日からできる第一歩として、ぜひ自社顧客のLTVを”見える化”し、データに基づく広告戦略の土台作りに着手してみてください。長期的な視野に立った取り組みが、楽天市場で貴社の持続的な成長と利益拡大をもたらすことでしょう。

📌 次の一手:LTVの”見える化”は、利益が出る広告運用の第一歩

LTVを活用した広告戦略に取り組むためには、まず「商品別・顧客別のLTVを正確に把握できているか?」という問いから始まります。

「どの商品が本当に利益を生んでいるのか?」
「この広告投資は、1年後に回収できるのか?」
「セット販売・クロスセルのチャンスは見逃していないか?」

——こうした問いにすぐ答えられることが、LTV経営のスタートラインです。

私たちが提供する《リピトラ(RepeaTracker)》は、
楽天市場の購買データをもとに、商品別のLTV・クロスセルを自動で可視化するツールです。

 リピトラでできること

  • 商品別LTV/リピート率/クロスセル傾向を自動で集計
  • 楽天RMSと自動連携、面倒な手作業は一切なし
  • RPP広告やCRM施策に活かせる数値を毎日更新で取得
  • 初期設定は全てお任せOK。無料トライアルあり

楽天市場運営において、広告で「利益が出る判断」をするために、まずは”自社のLTVを見える化する”ことから始めませんか?